大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2866号 判決

原告

岡義雄

ほか一名

被告

南正樹こと南基俊

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告岡義雄に対し金六二万一六三八円及びこれに対する昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告岡フミ子に対し金一八万四六一五円及びこれに対する昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告ら、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告岡義雄に対し金二七二万九七六二円及びこれに対する昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自、原告岡フミ子に対し金七七万二五三三円及びこれに対する昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件(交通)事故の発生

(一) 日時 昭和五九年二月四日午後一時三〇分ころ

(二) 場所 名古屋市南区白雲町一七四番地先路上

(三) 加害車両 普通乗用車(車両番号名古屋五三さ一九〇八)(以下「被告車」という)

(四) 右運転者 被告南基俊(以下「被告南」という)

(五) 被告車所有者 被告熊谷武治(以下「被告熊谷」という)

(六) 被告車使用者 被告戸谷かおる(以下「被告戸谷」という)

(七) 被害車両 普通乗用車(車両番号名古屋五三や五二五九)(以下「原告車」という)

(八) 右運転者 原告岡義雄(以下「原告義雄」という)

(九) 態様

原告義雄は、原告岡フミ子(以下「原告フミ子」という)を同乗させ、原告車を前記(二)の路上を南から北へ走行し、交差点手前で同所の信号が赤信号となつたので停車していたところ、被告南は被告車を運転して原告車の後方から原告車に衝突したものであり、本件事故は被告南の前方不注意等の一方的過失によるものである。

(一〇) 帰責事由

民法七〇九条(被告南)

自動車損害賠償保障法三条(被告熊谷、被告戸谷)

2  原告らの受傷

本件事故により、原告義雄は頭頸部挫傷、脳震盪症、背部・腰部挫傷等の傷害を受け、原告フミ子は頭頸部挫傷、脳震盪症、背腰部左肩上肢挫傷の傷害を受けた。

3  治療状況

(一) 原告義雄について

(1) 通院期間 昭和五九年二月四日から同年五月二六日迄一一三日間

(2) 実通院日数 九〇日

(3) 病院名 名古屋市瑞穂区白砂町一の一九

野々村医院

(二) 原告フミ子について

(1) 通院期間 原告義雄と同じ

(2) 実通院日数 八五日間

(3) 病院名 原告義雄と同じ

4  損害

原告らの本件事故による損害は次のとおりである。

(一) 原告義雄について

(1) 治療費 金六〇万七五八〇円

イ 野々村病院 金六〇万四五八〇円

ロ 光伸治療院 金三〇〇〇円

(2) 休業損害

イ 休業期間

原告義雄の本件事故による休業期間は、昭和五九年二月四日から同年五月二六日迄の一一三日間である。

仮に、昭和五八年九月一五日発生の傷害の治癒日(昭和五九年三月一三日、乙第九号証の七)以降のみを本件事故による休業であるとしても、その期間は七四日間に及んでいる。

ロ 年間収入について

(イ) 中華料理店関係について

原告義雄は、昭和五八年九月一六日に傷害を負い、昭和五九年一月一四日まで入院治療を受けていた。従つて昭和五八年の就労期間は昭和五八年一月一日から同年九月一五日迄であり、この間(二五七日分)の経費を除いた所得は三五〇万三一七七円である。右によれば、通常の一年間(三六五日分)の所得は、左記により算出され、金四九七万円となる。

三五〇万三一七七円÷二五七日×三六五日≒四九七万円

(ロ) 屋台関係について

原告義雄は屋台のラーメン屋をしていたが、その昭和五八年の一〇〇日分の売り上げ合計は六〇三万三五七〇円となり、これに基づき約四ケ月分相当として試算により一年分を算出すると約一八〇九万円となる。また昭和五八年の二月から五月のはじめにかけての屋台のラーメン屋の売り上げ合計は約五四五万円(八四日分、約三・五ケ月分)であり、これによれば年間の売り上げの試算は一八六八万円となる。

従つて、一年間の売り上げは少なくとも金一五〇〇万円を下回らない。

これによれば、経費(売り上げの四〇パーセント)を除いた屋台関係の年間所得は金九〇〇万円である。

右経費割合の四〇パーセントは自営業者で通常保険会社が試算する際に用いる系数の範囲内のものである。

ところで、税務申告と実態が異なることがあるばかりか、本件のように資金を投下して開業したものの、間もなく事故により営業の停止となつた場合には、結局その大半が経費となることは通常よくあることである。

(ハ) 以上により、原告義雄の本件事故当時の年間所得は合計金一三九七万円を下回らない。

ハ 損害額

(イ) 原告義雄の休業損害は左記により金四三二万円である。

一三九七万円÷三六五日×一一三日≒四三二万円

従つて、右原告義雄の休業損害は金二八七万〇六二九円を上回ることは明らかである。

(ロ) なお、仮に休業期間が七四日であるとしても、同原告の休業損害は左記により金二八三万円である。

一三九七万円÷三六五日×七四日≒二八三万円

(3) 通院費用 金一五五三円

(自車使用に伴うガソリン代)

片道 七・五km

燃費 七km/リツトル

ガソリン代 一四五円/リツトル

使用回数 一〇回(五日間)

七・五km/回×一〇÷七km/リツトル×一四五円/リツトル=一五五三円

(4) 慰謝料 金四五万円

原告義雄は、本件事故により前記の如き傷害を負い、通院生活を余儀なくされたものであり、これによる精神的損害は少なくとも金四五万円を下回ることはない。

(5) 右損害額合計

休業期間一一三日間として、合計金五三七万九一三三円であり、仮に七四日間としても合計金三八八万九一三三円である。

(二) 原告フミ子について

(1) 治療費 金六一万三八〇〇円

(2) 休業損害

イ 休業期間

(イ) 原告フミ子の休業期間は一一三日間である。

(ロ) 仮に、本件事故前の事故の示談成立日(昭和五九年三月一五日)以降のみを本件事故による休業であるとしても、その期間は七二日である。

ロ 年間収入

原告フミ子の年間収入は二四〇万円である。

ハ 損害額

(イ) 休業期間一一三日間として金七四万三〇一三円

二四〇万円÷三六五日×一一三日=七四万三〇一三円

(ロ) 仮に、本件事故による休業期間が七二日とすれば、原告フミ子の休業損害は左記の通り金四七万円である。

二四〇万円÷三六五日×七二日=四七万円

(3) 通院費用 金一六万五七二〇円

イ 自車使用に伴うガソリン代 金一万三〇五〇円

片道 七・五km/回(甲第一三号証)

燃費 七km/リツトル

ガソリン代 一四五円/リツトル

利用回数 八四回

七・五km/回×八四回÷七km/リツトル×一四五円/リツトル=一万三〇五〇円

ロ タクシー代九四回分 合計金一五万二六七〇円

(4) 慰謝料 金四五万円

原告フミ子は本件事故により、前記の如き傷害を負い、通院生活を余儀なくされたものであり、これによる精神的損害は少なくとも金四五万円を下回ることはない。

(5) 合計

イ 休業期間一一三日として合計金一九七万二五三三円

ロ 仮に休業期間が七五日であるとすると合計金一六九万九五二〇円

(三) 既受領金額

原告らは、自賠責保険からそれぞれ保険金金一二〇万円を受け取つている。

5  よつて、原告義雄は被告ら各自に対し本件事故に基づく損害賠償内金二七二万九七六二円及びこれに対する本件事故日である昭和五九年二月四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、原告フミ子は被告ら各自に対し前同損害賠償金七七万二五三三円及びこれに対する前同昭和五九年二月四日から完済まで前同年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は不知。

4  同4のうち(一)(二)の事実は否認し、(三)の事実は認める。

5  本件事故は、信号待ちしていた被告南が足からブレーキを離したためわずかに前進した被告車が原告車に接触したものであり、当時の被告車の速度は時速五キロメートル以下であり、本件事故による被告車の損傷は全くなく、原告車の修理代も僅か三万三八〇〇円(後部バンパー損傷)であり、原告らがどのような姿勢で座つていても頸椎捻挫等の傷害を負う筈がない。

三  被告らの主張

1  原告義雄関係

(一) 原告義雄は昭和五五年三月一一日に追突事故にあい、背腰挫傷、右足打撲の傷害で入院五一日、通院実日数九〇日の治療を受け、昭和五五年一〇月四日示談が成立し、自賠責保険一四級一〇号の後遺症認定を受けている。

(二) 原告義雄は昭和五八年九月一五日に自損事故を起こし、左第一一肋骨骨折、頸部脊椎症の病名で入院一二一日、通院三〇日の治療を受け、昭和五九年三月一三日に治癒した。原告義雄は右事故による傷害治療のため、本件事故後も右三月一三日までの間一二日間も通院している。

(三) 仮に原告義雄主張の症状が本件事故当時あつたとしても、前事故による症状が残存していたものであり、本件事故とは関係がないし、同原告は前事故により通院し就労していなかつたから、本件事故による休業損害はない。

2  原告フミ子関係

(一) 原告フミ子は昭和五五年三月一一日に原告義雄と共に受傷し、頭部頸背部挫傷で入院七〇日、通院実日数九〇日の治療を受け、昭和五五年一〇月四日示談をし、自賠責保険一四級一〇号の後遺症認定を受けた。

(二) 昭和五八年五月八日原告フミ子はタクシー同乗中に事故にあい、頭頸部挫傷、腰部挫傷等の傷害で入院二〇三日通院実日数四三日の治療を受け、昭和五九年三月まで通院治療を受けたものである。

(三) 原告フミ子は本件事故発生後も、前事故により一七日間通院治療を受けているから、仮に原告フミ子主張の症状があつたとしても、前事故による症状が残存していたもので本件事故とは関係がない。

また同原告は、前事故による通院のため就労していなかつたものであるから、本件事故による休業損害はない。

四  被告らの主張に対する答弁

1  被告らの主張1(一)の事実は認める。

2  同1(二)のうち原告義雄が昭和五八年九月一五日にワゴン車に乗車しようとして踏み外し傷害を負つたこと、同原告が通院三〇日間の治療を受けたことは認める(但し本件事故時、完治直前であつた)が、その余は争う。

3  同1(三)の事実は否認。

4  同2(一)の事実は認める。

5  同2(二)の事実は、原告フミ子がタクシーに同乗していた点を除き認める。

6  同2(三)は否認する。

第三証拠

本件記録の調書中の各書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれらを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の状況について

成立に争いがない甲第一四ないし第一七号証及び原告義雄の本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

1  本件事故現場道路は市街地にあり、路面はアスフアルト舗装され、乾燥しており、被告車からの前方の見通しは良好であり、原告車からの後方見通しも良好であり、交差点の信号機は正常に作動しており、最高速度四〇キロメートル毎時、駐車禁止の交通規制がなされていた。同所路面にはスリツプ痕等はなかつた。

2  被告車は長さ四・一五メートル、幅一・五八メートル、高さ一・三四メートル、定員五名の普通乗用車であり、ハンドル・ブレーキは良好であり、本件事故直後前部バンパーに擦過痕があつた。

3  原告車は長さ四・〇九メートル、幅一・六五メートル、高さ一・九七メートル、ハンドルの位置右、定員七名の普通乗用車であり、ハンドル・ブレーキは良好であり、本件事故直後、後部バンパーの中央部が凹損していた。

4  本件事故前、原告義雄は本件事故現場交差点で信号に従い、先行車に続いて徐々に減速して原告車を停止させ、助手席の方を向いて原告フミ子と話をし(首だけ斜めに向いていた)ていたところ、後続していた被告車に追突された。

原告らは、追突されるまで被告車には気がついていなかつた。本件事故当時、原告らはいずれもシートベルトをしており、追突により右肩が前に突き出るような形で前へ行き、続いて後へ戻つた。

三  原本の存在及び成立に争いがない甲第一、第二号証及び原告義雄本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故直後、原告らは頭がポーツしていたが、やがて頭頸部・背中・腰部等重感、疼痛等の症状が出てきたので本件事故当日に野々村医院(名古屋市瑞穂区白砂町)へ行き診察、治療を受けた。

原告義雄は同日同医院において頭頸部挫傷、脳震盪症、背部腰部挫傷の診断を受け、その治療のため同医院に昭和五九年二月四日から同年五月二六日まで(内治療実日数九〇日間)通院した。

原告フミ子は同年二月四日同医院において頭頸部挫傷、脳震盪症、背腰部左肩上肢挫傷の診断を受け、その治療のため、昭和五九年二月四日から同年五月二六日まで(実治療日数八五日間)右野々村医院に通院した。

四  本件事故前の事故受傷歴、既往症

1  被告らの主張1(一)(原告義雄の昭和五五年三月一一日事故による受傷、治療、示談、後遺症)の事実は当事者間に争いがない。

2  当事者間に争いがない事実及び成立に争いがない乙第九号証の二ないし七、一〇及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第九号証の八、九、一一ないし一三によれば、原告義雄は昭和五八年九月一五日自動車に乗り込もうとした際、足を踏み外して転倒し、左第一一肋骨骨折、頸部脊椎症の治療のため、同年九月一六日から昭和五九年一月一四日まで一二一日間加藤整形外科に入院し、同年一月一五日から同年三月一三日まで(実通院三〇日間)通院して治療を受けた(本件事故日以後も約一二日通院)。

3  被告らの主張2(一)の事実(原告フミ子の昭和五五年三月一一日事故による受傷、治療、示談、後遺症)は当事者間に争いがない。

4  当事者間に争いがない事実、成立に争いがない乙第八号証の一、三ないし三〇及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第八号証の二によれば、原告フミ子は昭和五八年五月八日午前一時ころ名古屋市緑区大高町内の交差点において江津栄子運転の普通乗用車に同乗していたところ、交差道路から進行してきた西正吉運転の普通乗用車に衝突され、そのはずみで、同原告同乗の乗用車は同交差点で信号待ちしていた他の大型トレーラーとタクシーに衝突し、頭部外傷、頸部挫傷、胸部打撲、多発性右肋骨骨折、肝損傷、腰部打撲等の傷害を受け、そのため昭和五八年五月八日から同年六月一〇日まで南生協病院、同年六月一一日から同年一一月二六日まで加藤整形外科にそれぞれ入院し、同年一一月二七日から昭和五九年三月一四日まで加藤整形外科に通院して治療を受けていることが認められる。

五  被告らは本件事故時、被告車は時速五キロメートル以下の低速であり、原告車の損傷も軽微であるから、原告らは本件事故により前記三の傷害を受ける筈はないと主張する。

しかし、前掲甲第一四ないし第一七号証によれば、本件事故直前の被告車の速度は比較的低速であることは認められるが、時速五キロメートル以下と認めるべき証拠はなく、原告車、被告車には前記二2、3の各損傷があること、本件追突時の原告らの姿勢、原告らは追突を受けるまで被告車に気づかなかつたこと、原告らは本件事故発生当日に医院へ行き医師の診断を受けており、その診断内容に特に不自然な点はないこと等によれば、前記三の傷害と本件事故と相当因果関係を否定する被告らの前記主張は採用できない。

しかしながら、前記認定の本件事故状況、原告らの受けた傷害の部位、程度、治療経過、事故受傷歴、既往症等を総合すると、前記三の原告らの治療、傷害の九割(本件事故の寄与度)が本件事故と相当因果関係があると認められる。

六  損害

1  原告義雄関係

(一)  治療費

原本の存在及び成立に争いがない甲第三号証によれば、野々村医院における治療費(昭和五九年二月四日から同年五月二六日まで)として金六〇万六五八〇円を要したことが認められ、原告義雄の本人尋問結果により原本が存在し真正に成立したと認められる甲第四号証によれば光伸治療院における治療費として金三〇〇〇円を要したことが認められ、これらの九割である金五四万八六二二円が本件事故と相当因果関係ある治療費と認められる。

(二)  休業損害

原告義雄の本人尋問結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇、第一一号証、成立に争いがない甲第一二号証によれば、原告義雄は昭和五年三月一日生れの男子であり、本件事故前昭和五八年九月一五日まで中華料理店及び屋台の営業をしていたことが認められる。

前記各認定事実に、原本の存在及び成立に争いがない甲第六号証を総合すると、原告義雄は本件事故がなければ昭和五九年三月一四日以降同年五月二六日までの七四日間、昭和五九年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者五〇才ないし五四才の平均年収五〇〇万九八〇〇円の九割(本件事故の寄与度)である年額金四五〇万八八二〇円の割合による収入を得べかりしものと認められるから、次の計算により同原告の本件事故と相当因果関係ある逸失利益は金九一万一六一九円と認められる。

500万9800×0.9×74/366=91万1619 (円)

原告義雄は、甲第七号証を提出して同原告は屋台のラーメン屋で昭和五八年の一〇〇日分の売り上げは六〇三万円であり、乙第八号証の二九によつても昭和五八年二月から五月の初めにかけての八四日分の屋台(ラーメン屋)の売り上げは約五四五万円であり、これらによれば同原告の屋台(ラーメン屋)の売り上げは年額一五〇〇万円であり、右年収から経費四〇パーセントを差引くと屋台(ラーメン屋)関係の年間収入は九〇〇万円であると主張する。

しかしながら甲第七号証は表紙を除いた各葉には日付、売上げ内訳の記載がない簡略なメモに過ぎず、右金額を裏付ける材料等の仕入れの証明書、当時の現金の出入りを証明する帳簿、銀行通帳等の提出もなされていないし、また前記甲第一二号証によれば同原告は昭和五八年三月二三日から屋台営業をしていることが認められるが、乙第八号証の二九には昭和五八年二月一日から屋台営業している旨の記載があり、その記載内容も内訳の記載がない簡略なメモに過ぎず、成立に争いがない乙第八号証の二八(所得確定申告書)の申告金額は前記甲第六号証(中華料理店舗と屋台営業の所得合計)の所得金額と著しくくいちがつており、結局、甲第七号証、乙第八号証の二九はその内容を裏付ける根拠が不十分であつて、内容の正確性に疑問があり、これらの書証に基づく同原告の屋台営業による売上金、所得金額の主張は採用できない。

また前記四掲記の各証拠によれば、原告義雄は前記四2の事故により昭和五九年三月一三日まで他の整形外科医の治療を受け、同日までは右事故により就労できなかつたものと認められるから、昭和五九年三月一三日以前の休業分については本件事故と相当因果関係ある休業損害を認めることはできない。

(三)  通院費用

前記認定事実、成立に争いのない甲第一三号証及び原告義雄の本人尋問結果によれば、請求原因4(一)(3)(通院費用一五五三円)の九割である金一三九七円が本件事故と相当因果関係ある通院費用と認められる。

(四)  慰謝料

前記認定の本件事故と相当因果関係ある原告義雄の傷害の部位程度、治療経過を総合すると、本件事故による同原告の受傷による慰謝料は金三六万円と認めるのが相当である。

(五)  以上の(一)ないし(四)の各損害を合計すると金一八二万一六三八円となる。

54万8622+91万1619+1397+36万=182万1638(円)

(六)  損益相殺

自賠責保険から原告義雄に対し金一二〇万円の支払がなされたことは当事者間に争いがない。

前記(五)の損害から右既払金を差し引くと金六二万一六三八円となる。

186万1638-120万=62万1638(円)

2  原告フミ子関係

(一)  治療費

前記認定事実、原本の存在及び成立に争いがない甲第五号証によれば、野々村医院における治療費(昭和五九年二月四日から同年五月二六月まで)として金六一万三八〇〇円を要したことが認められ、その九割である金五五万二四二〇円が本件事故と相当因果関係ある治療費と認められる。

(二)  休業損害

原告義雄の本人尋問の結果及びこれにより原本が存在し真正に成立したと認められる甲第八号証、成立に争いがない乙第八号証の二七によれば、原告は本件事故前(昭和五八年五月七日以前)中華料理店で働き四か月間に八〇万円の収入(年収二四〇万円)を得ていたが、本件事故がなければ昭和五九年三月一六日以降同年五月二六日まで七二日間右収入の九割を得ることができたものと認められるから、同原告の本件事故と相当因果関係ある休業損害は、次の計算により金四二万四九一八円と認められる。

240万×0.9×72/366=42万4918 (円)

なお前記四掲記の各証拠によれば、原告フミ子は、前記四4の事故により昭和五九年三月一五日まで他の整形外科医の治療を受け、同日までは右事故により就労できなかつたものと認められるから昭和五九年三月一五日以前の休業分については本件事故と相当因果関係ある休業損害を認めることはできない。

(三)  通院費用

前記認定事実、前記甲第一三号証、原告義雄の本人尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係ある通院費用は請求原因4(二)(3)イのガソリン代一万三〇五〇円及び同ロの九四回通院費用分の内公共交通機関による通院費用相当分三万九四八〇円(合計五万二五三〇円)の九割である金四万七二七七円と認められる。

(四)  慰謝料

前記認定の本件事故と相当因果関係がある原告フミ子の傷害の部位程度、治療経過等を総合すると、本件事故による同原告の受傷についての慰謝料は金三六万円と認めるのが相当である。

(五)  以上の(一)ないし(四)の各損害を合計すると金一三八万四六一五円となる。

55万2420+42万4918+4万7277+36万=138万4615(円)

(六)  損益相殺

自賠責保険から原告フミ子に対し金一二〇万円の支払がなされたことは当事者間に争いがない。

前記(五)の損害から右既払金を差し引くと金一八万四六一五円となる。

138万4615-120万=18万4615(円)

七  以上の次第で原告義雄の本訴請求は被告ら各自に対し本件事故に基づく損害賠償金六二万一六三八円及びこれに対する本件事故日である昭和五九年二月四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、原告フミ子の本訴請求は被告ら各自に対し前同損害賠償金一八万四六一五円及びこれに対する前同昭和五九年二月四日から完済まで前同年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからこれらを認容すべきであり、原告らのその余の請求は理由がないから、これらを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例